Water　Boardについて

　中央政府・州政府・市町村議会は広く認識されている機関であり、ほとんどの人々はその役割を認識している。しかし、オランダで最も古い民主政治の形態である水委員会は、この国の住環境を維持するために大変重要な役割を果たしているのにもかかわらず、あまり良く知られていないのが実情である。

（1）オランダの水辺環境について
　嵐や河川の高水に対する防御施設である堤防・堰等がなければ50％以上の国土が失われる。

　多数の運河・石垣，ポンプ施設，堤防，排水溝がオランダの住環境を守っており、これらの構造物がなければ、約9百万人にも及ぶ人々が住み，働いている国土の半数が失われてしまうであろう。

　また、水委員会は水管理の側面でも不可欠な役割を果たしている。近年、水管理のためにより多くの堤防・ポンプ施設が要求されている。水委員会の活動は、国土開発，自然保養・環境保全・レクリエーション等と密接に係わっている。水委員会はそれらの間題のバランス・時には水管理の利権と矛盾することに責任を負わなければならず、これらは中央政府・州政府，市町村議会・その他の議会との協力のもとで行われている。

　以下に、オランダの組織化された水管理方法，及びその中における水委員会の役割について述べている。

（2）水委員会の起源
　オランダの低地に最初の水委員会が出現したのは中世であり、既に存在していた自治会（borought）が水委員会の出現に大きな役割を演じた。自治会（borought）は地域住民の関心を喚起するために統治者を抽出し、水管理を彼らの裁量の下に任せたのである。

　農民地主には小さな堤防，運河，河道，道路の様な地域的な水管理を行わせた。つまり彼らは、最初の水管理者である。河口堰．測溝．運河等の沿った堤防の建設には全て人馬によって行われたので巨額の請負金が必要なため、築堤，排水溝の建設には1つの自治会（borought）の境界を超えて行われた。これらの建設には、農業地帯での作業が必要であったため、自治会（borought）問の地域的な協力体制の必要性から水委員会が生まれたのである。

　1850年になると3，500もの水委員会が存在していたが、1950年には合併によってその数は2,500までに滅少した。さらに、1953年の療水によってより広範囲への管理の要求から統合が促進され1992年には水委員会は約120に滅少した。

　これらの統合にも係わらず幾つかの水委員会では12〜14世紀の形態を今日でも残している。それらはしばしば”heemraadschap，hoogheemraadschap，polderdistrict（PolderBoard）”といった由緒のある名前で運営されている。

（3）水委員会の概要
（a）水委員会の役割
　合併によって組織を統合したが、水委員会は依然として地域・地方の水管理の責任を負っている。州当局は水委員会の廃止・設立，水管理のために水委員会の課す税金，管轄地域・評議会の構成やそのメンバーの選出方法の決定権を有している。また、水委員会の収支，その職務についての監督も行っている。

　州を超えた国土全体に対する水管理の責任は、政府が負っている。政府（運輸・公共事業省の公共事業・水管理局）は北海，ワッデン海，主要河川．河口，三角洲の水管理に対して責務がある。

　また、州，市町村，水委員会は政府の出先機関でもあるが、これらは、独立しており、独自の管轄地域や権限を所有している。また、税金等の市民が遵守すべき法規を個々に制定することができるのである。

　職務には当然差異がある。市町村，州は教育，文化，環境，都市・国土計画等の重要な職務があるのに対して、水委員会の職務は管轄地域の水管理に関してのみである。
　水委員会には次の様な暇務が課せられている。

　水管理：堤防，運河，防波堤の様な手段を用いて洪水から守る。
　水量：水量管理や、最適な水位を維持する。
　水質：水質汚濁防止，地表水の水質改善
　内陸の水路，道路管理

　水委員会の役割は、多種多用である。ある水委員会の役割は、専ら水質管理であり（water purification boardやzuiveringschapとして知られている）、ある水委員会の役割は、水量又は道路，水路の管理であったりする。しかし、水委員会は飲料水に対しての責務はなく、それらは飲料水供給会社によって賄われており、地下水に関しては州によって管理されている。水委員会の役割は、水管理委員の条例によって定められている。

（b）水委員会の機積
　水委員会の機構は、水管理者法案（Water Authorities Act）を基本にしている。この法案は水委員会の管理体制についての多数の一般的な規則から横成されている。
　この法案によって水委員会の管轄範囲，職務，委員数，利権団体ごとの議席数を定められ、州当局によって監督されている。また、水委員会は、市議会と同様に一般委員会・執行委員会・委員長により構成される。殆どの水委員会の各委員会は歴史的な名前を使用している。
　一般委員会は”verenigde vergadering（united assembly）”，”vergadering van hoofdingelanden（assembly of polder landowners）”と称され、また、執行委員会は、”college van dijkgraaf and（hoog）heemraden（board of（high）water councillords and dike reev）”，”dijkstoel（dike session）”と称される。委員長は”dijkgraaf（dyke reeve”，”watergraaf（water reeve）”と呼ばれている。

　水委員会のその他の特徴は、機能的な性質である。つまり、水委員会は水管理という１つの目的のみの機構であるため、その他の行政機関よりも機能的である。また、一般委員会は、水委員会の職務に対して利権のあるグループの代表者によって構成されている。

　委員会員の選出は水委員会の規定により、利権のあるグループ（水委員会の職務に対して利害を有する団体・費用を出している団体）から候補者を募る。土地所有者，資産家は共に一般議会において活動を行う。生活・工業の水質汚染者は、水質管理を行っている水委員会の委員会でのみ活動を行う。水管理者法案によると借地人、居住者（すなわち国民）も利権を所有するグループと見なされる。

　一般委員会の委員は、市，州のように一般的な選挙によっては選ばれず、地主（農場経営者やその他の地主）や資産家がその団体の代表として直接選出する。しかし、時々ではあるが市議会員の中から間接的に選出されることがある。また、汚水排出者である居住者の代表は、汚水の排出量が商工会議所によって決められている関係上、一般的に市議会の執行部より選ばれている。水委員会の執行委員は一般委員会において、一般委員の間から選出，任命され、委員長は必ず国家元首によって任命される。また、委員の任命，立候補は4年又は6年毎に行われている。

　水委員会の一般委員会は、技術・行政上の公務に支えられている。公務の範囲仕事は水委員会の職務・管轄地域・水管理の形態に応じて異なる。職員の数は多種多様であり、20人から、400人の問であり、オランダ全土では、約8，000人の人々が水委員会で働いている。水委員会で働く人々は市や州の職員と同様に公務員であり、彼らは屋外か又は水委員会の事務所で働いている。

（c）水委員会の財政
　水委員会の活動には、当然費用がかかる。水委員会全体で、一年間に20億ｷﾞﾙﾀﾞｰの収入がある。水委員会の財政は、全て、水委員会税，汚水排水税によって賄われている。　　水委員会税は水量・道路・航路管理に支出されている。

　この税金はその水委員会の管轄内にある土地所有者・土地利用者・資産家に対して課せられる。土地の所有者，利用者の場合、税率は土地の広さによって決定される。即ち、土地が広い程、税金をよりたくさん払わなければならない。同様な原則が資産家にも当てはまる。高価な家屋を所有するものは、それだけ税金が高くなる。資産の貨幣価値は、専用の判断基準に基づいている。

　水質管理のための支出は異なった方法によって賄われている。即ち、汚水排出税である。”地表水汚染防止法”は、”排水者の自己負担”の原則に基づいて、汚水排出者全てに対して、税金を課している。これは、生活排水に関しても年にある一定の税金負担を掛けることを意味している。独り住まいの人は、多人数で住んでいる人々よりも税金は安く（ラインランドの水委員会で家庭は、独り住まいの人の３倍の税金を支払う）、会社や協会は汚水の排出量及びその成分に従って、税金を支払う。

　水委員会税・汚水排出税は、各々の水委員会で異なっている。税率は、各年の収支によって改正される。大規模な堤防の補強，汚水からの燐，汚泥処理費用等、支出を増大させるものに対しては特別な方策が必要となる。また、近い将来汚泥処理のための費用によって、劇的に汚水排出税が引き上げられるものと予想されている。

参考文献：[Ｗａｔｅｒ Ｂｏａｄｓ]Ｕｎｉｅ ｖａｎ Ｗａｔｅｒｓｃｈａｐｐｅｎ